お屋敷ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

婚約者は誰?(15)

婚約者は誰?13

 
 二人は屋敷の渡り廊下までやってきた。誰もいない。くりと繭美が振り返る。佐藤は息を切らせていた。
「お嬢様……。お見合いをやめることにしたんですね」
「ええ」
 佐藤は嬉しそうだった。とても満足そうに。まるで私が誰とも結婚しないのを喜ぶかのように。それはつまり――
「だからね…」
 佐藤。私に気兼ねなくプロポーズしてもいいのよ?
 と、繭美は言いたかった。
「お嬢様ぁぁぁっ」
 どこかで佐原の声がした。
「佐原が…探してる」
「お嬢様。隠れて下さい。あの会場はナントカしますので」
 佐藤はそう言って、去って行ってしまった。
「……」
 置いてきぼりの繭美。ぽつん…。
 何よ……。せっかく二人だけでらぶらぶ出来る時間だったのに。
 繭美は仕方なく廊下を渡りきって、庭に出た。日差しが眩しい。噴水がさらさらと音をたてて流れていた。この庭まで追いかけてくる人はそうそういないだろう、と油断したのだが。
「…まゅ…み」
 がばっと振り返ると、平松がよろよろしながら近づいてきた。
「ひっ」
 平松はベージュのジャケットを土だらけにし、歩いてくる。
「…三百メートル十秒で疾走してここまで来たよ。それは冗談だが繭美。どうして僕から逃げる?」
「そ…それは…」
「僕が嫌いなのか? 嫌いなら今すぐ出てゆくよ。嫌いなのか? ハッキリ言ってくれよ」
 平松はフケ顔に哀愁を漂わせながら、しつこく聞いてくる。
 いつもの繭美なら「あーもーきらいー」と言いそうであるが、言えなかった。平松は良い奴だからだ。平松は髪が短く、眉も濃く、体もごつく、何もかもが濃ゆく、繭美の超タイプとは逆走したタイプだが、中身はまともだった。ややしつこいが、優しい男だ。紳士だし、もし結婚すれば自分を守ってくれるであろう。
 ――しかし。
「なんかや」
「!?」
「嫌いじゃないけど……付き合うのは、や!」
 平松、ショックで動けない。泣きそうな顔をしている。
「もう帰って」
「……ぅ」
 繭美は庭を駆け、平松を置き去りにして逃げた。
 屋敷裏にある車庫から内部へ通じる扉を開け、ひんやりした地下を通って再び一階に上がる。廊下に出た。ここは父親の書斎の近くだ。と、声がした。笑い声もする。
「――うまくいったな」
 パパの声? どこ?
「……お見合いは失敗しましたね」
 あ…れ? 佐藤の声。
 ――ゾクリとした。とても、嫌な予感。
 繭美は声の聞こえる部屋に近づき、扉をうっすら開けた。そこには父、広人と佐藤がいた。
「お見合いなんてクソくらえだ」
 と広人が笑いながら毒づいている。
「なんとしてでも止めましたよ。私は」
 佐藤も机に腕をついて寄りかかり、広人と笑い合っていた。
「ひろし、お前のおかげだな」
「じゃあ、約束の物をお願いします」
 佐藤が両手を出すと、広人が札束を渡した。
「約束の褒美だ」
「わ~い♪」
 ――――!!!!
 ブチッと頭の筋がキレる音がした。
 回し蹴りで扉を蹴る。丈夫な扉は木っ端微塵で吹き飛んだ。
「…っ。お嬢様」
 佐藤が札束を握り締めながら、呆然とこちらを見ていた。繭美はただ凍てつくような視線を向け、その視線を広人に向けた。
 広人は、繭美と目が合うなり石にされた。
「あ、あの。これはですねー」
 と佐藤が言いかけたが、
「二人供、大ッ嫌い!!!!」
 繭美は泣きながら一目散に走り去った。
 大嫌い大嫌い大嫌い――。
 佐藤が見合いを邪魔しまくっていたのは、「お金」が欲しかったからで、私への感情なんてこれっぽっちもなかったんだ。恥ずかしい。死にたい。少しでも佐藤が私のこと好きかもなんて思っていた時間が恥ずかしい。どうして勘違いしちゃったんだろう。パパもグルだったんだ。よく考えたら佐藤が私を好きなはずないのに――。
 自分の部屋に戻り、ベッドにもぐって泣き続けた。
「……っ。うぅ。ひっく」
 もう死のう。もう外に出られないから…。
「お嬢様! 開けて下さい。佐原です」
「…………」
「お願いします。開けて下さい。会い辛いでしょうが――」
「…無理よ」
「芽依見様はマスターキーを使おうか考えています。そうなればたくさんの人がこの部屋に来てしまいます。私だけ、部屋に入れて下さい。うまく皆には言っておきますから」
「佐原……」
 繭美は、泣きはらした目で扉を開けた。


 つづく


   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。